コピルアクの起源・歴史~コピルアクとは

コピルアクを焙煎する女性 コピルアク
コピルアクを薪とフライパンを使って豪快に焙煎する農園オーナー
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私がコピルアクにはじめて出会ったのは、インドネシアのジョグジャカルタを旅した時のことでした。
その当時の私は、コピルアックはめちゃくちゃ高いコーヒーで、ジャコウネコの糞からコーヒー豆を取って作られるということくらいしか知りませんでした。

ジョグジャカルタやバリ島など、観光客が多く訪れる場所にはけっこうコピルアク屋さんがあります。お土産として売っているお店もありますし、カフェなどが併設された本格的なコピルアク屋さんもあります。地元の人のためのお店というよりは、明らかに観光客向けのお店が多いことに驚きます。私は5つほどお店を回りましたが、そのうち3つは日本語での説明や看板、商品に入っている説明書も日本語で書かれてありました。説明書に描かれている絵もかわいく、パッケージもおしゃれでなかなか上手に売っています。

確かにどのお店のコピルアクも美味しかったのですが、なんだか観光客向けだと分かるとどうしても気持ちが覚めてしまうのが私の悪い癖です。。。

もっとローカルなコピルアク屋さんは無いのかなと思っていた時、ジョグジャカルタのメインストリート「マリオボロ通り」で一人のインドネシア人と出会いました。
彼の名前はブディ。顔は西川きよしさんをインドネシア人にしたような感じです。ブディは8年ほど前に日本で3年間ほど働いていたらしく、かなり流ちょうな日本語(関西弁)を話します。底抜けに明るい男で、しきりに日本のギャグを飛ばしてきますが、彼の日本の知識は8年前で止まっているらしく、かなり古いギャグばかりです。
現在は、ここジョグジャカルタで個人でツアーガイドの仕事をしているとのこと。ローカルなコピルアク屋さんはないかと聞いてみると、彼の学校時代の先輩がやっているという情報がもらえました。日本語を喋れる現地人は怪しいというのが旅の定説ですが、「こいつは悪いやつではない!」という直感から、彼にそのお店に連れて行ってもらうことにしました。

ジョグジャカルタ マリオボロ通り

ジョグジャカルタ市のメイン通りのマリオボロ通りはいつも人でいっぱいだ。JLはジャランの略で「通り」という意味。

そして私は、ブディに連れて行ってもらったお店のコピルアクを大変気に入ってしまい、遂にはそのコピルアクを輸入して日本で販売するようにまでなってしまいました。。。

そこで、今回はコピルアクの起源と歴史をお伝えします。
コピルアクのことを単に知りたい方、コピルアクを買おうかどうか迷っている方、コピルアクをこれから飲もうと思っている方。この記事を読んでもらえれば大体コピルアクの歴史のことが分かっていただけると思います。もしコピルアクを飲む機会がある方は、より一層コピルアクを楽しんでいただけること間違いなしです。

 

(ブディに連れて行ってもらったアリズコピルアクのオーナー「Sayid Ali氏」の紹介記事は下記からご覧ください。)

本物のコピルアクを作り続ける男に学ぶ、幸せになれるお金の使い方
ジョグジャカルタで、世界で最も希少なコーヒー「コピルアク」を作り続けるAli Sayid。いつも自由奔放に、子供のような笑顔をふりまきます。それは彼のお金の使い方に秘密がありました。

 

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オランダの植民地政策がコピルアクを生んだ

ジャコウネコがコーヒーの実を食べ、そのあと排泄された糞からそのコーヒーの実を取り出したものがコピルアクというコーヒーです。このことはご存じの方が多いと思いますが、なんでまたわざわざジャコウネコのうんちの中に入っているコーヒー豆でコーヒーを作ろうと思ったのでしょうか?普通にコーヒーを飲めばいいのにと思ってしまいます。

コピルアクのオリジナルの原産地はインドネシアで、その理由はインドネシアが歩んできた歴史にあります。
インドネシアは1609年から1949年までの約340年間もの長い間、オランダに植民地化されていました。植民地化というと、随分昔の話のように思いますが、まだ100年も経っていないんですよね。
この時期はインドネシアだけではなく、ベトナム(フランス植民地)、ラオス(フランス植民地)、マレーシア(イギリス植民地)、ミャンマー(イギリス植民地)、カンボジア(フランス植民地)、フィリピン(スペイン→アメリカ植民地)など多くの東南アジアの国々が欧米諸国に植民地化されていました。
今でこそ、侵略は悪だとか、人権がどうだとかが国際社会の大義になっていますが、ほんの数十年前までは当たり前のように植民地化が行われていたことに驚くと同時に、この数十年で欧米諸国が手のひらを返したように正義の定義を変えたことに疑問を感じてしまいます。

実は、オランダに植民地化される前まではインドネシアにはコーヒーの木がありませんでした。植民地時代の18世紀ごろ、オランダがインドネシアに持ち込んだのです。インドネシア人の安い労働力を使いコーヒーの木を栽培さるというのが理由でした。

またコーヒーはどこでも栽培できるものではなく、「土の質」「雨量」「湿度」「日の量」の条件が揃っていなければなりません。その条件を満たすのが、赤道を挟んで南北25度(コーヒーベルト)で、インドネシアはまさしくそのコーヒーベルト上に位置しています。安い労働力、コーヒーベルト上ということで、オランダにとってインドネシアは最高のコーヒー栽培地だったのです。

コーヒーベルト

植民地時代のインドネシア人の生活環境は過酷でした。オランダによって多くの農地が強制的にコーヒー栽培に切り替えさせられたため、食品の自給体制は大きく減少したくさんの餓死者が出ました。この時期のインドネシア人の平均寿命は35歳までに低下したそうです。
インドネシア人は労働者ではなく、ほぼ奴隷として扱われていたのですね。インドネシアの植民地から得た利益は、オランダの国家予算の30%を占めていたと言われます。

もちろん、そんな状況に置かれているインドネシア人がコーヒーを楽しめる権利があるわけがありません。彼らはオランダ人がコーヒーを楽しむために、自分が楽しむことができないコーヒーを黙々と栽培するだけです。

「そこまでしてオランダ人が栽培を強要するコーヒーとはどんなものなのか?どんなに美味しいのか?」

当時のインドネシアの人々は気になって仕方がなかったはずです。

そんなインドネシア人たちにコーヒーを味わうチャンスがやってきます。
ある時、インドネシアの労働者たちがコーヒーの木がある山を歩いているときに、ジャコウネコの糞を見つけました。その糞の中にはコーヒーの実がそのままの形で残っていたのです。

インドネシアの山で働く女性

インドネシアにはたくさんの山があり、今でも山で働く人は多い。

ジャコウネコとはジャコウネコ科の動物で、約80種類います。アフリカ大陸、ユーラシア大陸、スリランカ、フィリピン、そしてインドネシアに生息しています。ネコというよりかは、かわいらしいタヌキのような顔をしています。ハクビシンというジャコウネコ科の動物が日本に生息していますが、これは外来種でどこかの時期に日本に入って来たようです。

ジャコウネコ

お昼寝をするジャコウネコ。ジャコウネコ科は夜行性が多い。

先ほどジャコウネコの糞の中にコーヒーの実がそのまま残っていたと言いましたが、正確にはコーヒー実の「種」です。コーヒーの実は種の周りに薄く付いていて、ジャコウネコはこの実の部分は消化できますが、種(コーヒー豆)の部分は消化できずに糞に混ざって出てくるんですね。

コーヒーの実

赤や黄色、緑の部分が実だがかなり薄く、種(コーヒー豆)が大きい。

このコーヒーの種が混ざった糞をみて、インドネシア人は思いました。
「なんということだ!コーヒーが飲めるチャンスだ!よし、飲んでみよう!」
正確にそう言ったかどうかは分かりませんが、汚いとかどうだとかは感じず、遂にコーヒーが飲めると最も気持ちが高ぶったことでしょう。

彼らは糞からコーヒーの種を拾い、きれいに洗い焙煎してコーヒーを作りました。
すると、なんとも言えぬ素晴らしいアロマを持ったコーヒーが出来あったそうです。
これがコピルアク誕生の瞬間です。

(コピルアクの味と香りについては下記の記事をご覧ください)

コピルアクの味と香りの感想~なぜ美味しいの?
世界一高価なコーヒーと言われるコピルアク。どんな香りで味なのか気になっている方も多いのではないでしょうか?現地に赴き、何度もコピルアクを飲んだ私が感想をお伝えいたします。

 

ちなみに「コピルアク」の名前に意味・由来は「Kopi(コピ)」がインドネシア語でコーヒーの意味、「Luwak(ルアク)」がインドネシア語でジャコウネコを意味します。インドネシアに行くと、いかつい風貌のおじさんでも「コピ!コピ!」と言っていて少しかわいいです。
英語で書くと「Kopi Luwak」という表記と「Kopi Loewak」という2種類の表記があります。「Loewak」というスペルの方が古く、オランダ植民地時代に使われていました。ジャワ島のコピルアク屋さんはこだわって、まだ「Loewak」を使っているところがあります。

ジャコウネコの糞 コピルアク

処理をする前のコピルアク。この後、きれいに洗浄して乾燥させる。

コピルアクの誕生は、

  1. インドネシアがコーヒーベルト上に位置していたこと
  2. ジャコウネコの生息地であったこと
  3. オランダ人が植民地のインドネシアにコーヒーを持ち込んだ

3つのことが重なって起きたことなのでした。コピルアクは明るい歴史の中から生まれたわけではなく、悲しくつらい歴史の中から生まれたまさしくインドネシア人のコーヒーなのです。

 

映画「最高の人生の見つけ方」でコピルアクが世界的に有名に

そもそもインドネシアの人たちが楽しむためのコーヒーだったことと、かなり生産量が少なかったことで、当時はコピルアクは誰もが知るコーヒーではありませんでした。
そんなコピルアクが世界的に一気に有名になったきっかけが、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが出演した2007年公開(日本は2008年公開)の「最高の人生の見つけ方」という映画でした。
この映画の中でコピルアクはなかなか重要な役割を果たします。

最高の人生の見つけ方

また日本では「かもめ食堂」という映画の中で、コーヒーを美味しくするおまじないとして「コピルアック」という言葉が出てきます。この映画は2006年公開なので、日本でコピルアクが有名になったのが世界的に有名になったより先かもしれませんね。インドネシアのコピルアク屋さんで日本語の説明が多いのも納得がいきます。

かもめ食堂

 

偽物や人工飼育のコピルアクが続出


世界的にコピルアクが有名になると、コピルアクを欲しがる人も増えていきました。
普通のコーヒー豆であれば農園を拡大するとか、工場を拡大するとかで生産量を増やすことが可能です。しかし、コピルアクは、野生のジャコウネコがおもむくままにコーヒーの実を食べて自然に排出されるものです。簡単に生産量を増やして、拡大した需要に対応することはできません。

そこで出現したのが、「偽物のコピルアク」と「人工飼育のコピルアク」です。

偽物のコピルアク

「偽物のコピルアク」には、

  1. 他のコーヒーを混ぜたブレンド品
  2. 全く別のコーヒー豆に香り付けをしたもの

があります。

「1. 他のコーヒーを混ぜたブレンド品」は、まさしく他のコーヒー豆を混ぜたブレンド品です。
ブレンド品なのでいいじゃないかと思うかもしれませんが、問題はブレンド品と謳われていないことです。コピルアク〇%と書いてあれば問題ないですが、コピルアク100%と謳ってるのにも関わらず他のコーヒー豆がブレンドされているものがあります。もしくは何の表記もなく、コピルアクとだけ書いてあるが実はブレンド品というものも多いです。他の豆とブレンドすれば、同じ量のコピルアクでたくさんの商品を作ることができ、安く販売することが可能です。

もう一つのパターンは「2. 全く別のコーヒー豆に香り付けをしたもの」です。
全くコピルアクを使っておらず、他の豆に香り付けしただけのものです。本物コピルアクは甘くチョコレートのような何とも言えない素晴らしい香りがします。そのため、そのような香りに近づけるために、チョコレートやバニラのフレーバー人工的に付けます。これに関しては、安価な豆を使えば相当原価が安く付き、驚くような安価で偽コピルアクを売ることが可能です。

人工飼育のコピルアク

「人口飼育のコピルアク」は、野生のジャコウネコを捕獲して、檻の中で飼育するというものです。飼育されたジャコウネコは人間に無理やりコーヒーの実を食べさせられます。この方法であれば、コピルアクの生産量も計算でき計画的に増産できます。また、採取できるかどうか分からないコピルアクを山に探しに行く必要もなく、安定的に生産でき、大幅なコストカットも可能です。そのため、より安価(売れやすい価格)でお客さんに販売することが可能となります。

ちなみに、インドネシアのコピルアク屋さんに行くと、檻に入ったジャコウネコを見ることがあります。これは観光客がジャコウネコを見られるように飼育されているだけで、そこのコピルアク屋さんが人工飼育のコピルアクを売っているとは限らないようです。

コピルアクが有名になったこの時期ごろから、インドネシアだけではなく、ベトナムやフィリピンでも盛んに人工飼育のコピルアク屋さんが増えていきました。

しかし人工飼育のコピルアクが噂になると、イギリスの放送局BBCがインドネシア、フィリピンに潜入調査をしてコピルアクの実態についてのドキュメンタリーを作製します。このドキュメンタリーでは、ジャコウネコがかなり劣悪な環境で飼育され、無理やりコーヒーの実を食べさせられていたことが暴露されました。

 

コピルアクの現在の状況

BBCの報道後、世界的なコピルアクの熱が落ち着いたこともあり、その当時に比べれば現在はコピルアクを売っているところは減少しています。それでも、まだたくさんの偽物や人工飼育のコピルアクが売られています。
同時に、今でも天然のコピルアクにこだわっているコピルアク屋さんもあります。

「どれが本物でどれが偽物か?」

「どれが天然のコピルアクで、どれが人工飼育のコピルアクか?」

(本物と偽物の見分け方のコツは下記の記事で紹介しています)

世界一希少なコーヒー豆「コピルアク」の相場・価格~何故、そんなに高いの?
世界一希少で高価なコーヒーと言われる「コピルアク」。今回は、インドネシアでコピルアクに出会い、コピルアックの価格・相場についてお伝えいたします。また「コピルアクの製造方法」を通じて価格が高い理由、本物・偽物の見分け方、コーヒー1杯に換算したときにどこで買うのがお得なのかもお伝えします。

 

人工飼育でもきちんとした環境で大事にジャコウネコを飼育しているお店や農園もあると思います。しかし、ジャコウネコの起源を振り返ると、コピルアクは自然からの贈り物であると言えます。ジャコウネコの意思や自然の法則に反したものはやはりコピルアクとは呼べないのではないでしょうか。

コピルアクを探す農園オーナー

山まるごとが農園になっている山でコピルアクを探す農園オーナー

 

まとめ

コーヒー自体にも深い歴史がありますが、コピルアクにも深い歴史があります。
コピルアクはかなり高価なコーヒーです。何も知らずに飲むと、ただ単に高く美味しいコーヒーになってしまいます。しかし、コピルアクの歴史、インドネシアの歴史を知った上で飲むと、また違った味わい方ができるのではないでしょうか。またその価値の高さにも納得できると思います。
「大量生産・大量消費」のこの時代に、「非効率・希少」な本物のコピルアクを楽しむことは心の豊かさにもつながるような気がします。

 

 

(私が惚れ込んだ「アリズ コピルアク」の公式サイトは下記のリンクからどうぞ

アリズ コピルアク | コピルアックコーヒー豆の通販 Ali's Kopi Loewak Japan
長年、ジョグジャカルタで地元の人に愛されているコピルアクです。創業40年の自家製法にこだわったオリジナリティのあるコピルアック。唯一無二の香味は、高級なコーヒーの贈り物、ギフトとしても最適です。インドネシアの古都ジョグジャカルタで生産したコピルアックをAli's Kopi Loewak JAPANが通販でお届けいたしま...

コメント

  1. […] 参考資料:コピルアクの起源・歴史~コピルアクとは | PEOPLE×WORLD(ピープルワールド… […]

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